すっぱい指を指の付け根から爪の先端、さらには爪と指との間まで丹念になめながら僕は銀行員をしている東村さんに囁くように語りかけた。東村さんは二十三才で僕より三つ年上だ。

「屁しました?」

 東村さんは耳の後ろの方を靴下に開いた穴でも見つめるようにさり気なく答えた。

「いや、してない。」

 僕はとっさに賞味期限切れのプッチンプリンを食べたときに感じる陶酔感を全身で味わいながら、必然的にデンジャラスな悦びに包まれていた。

「そうですか。」

 窓の外を眺めると、黒いカラスが数羽、走り回っていた。

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